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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)5520号 決定

原告 ライオン歯磨株式会社

被告 塩野義製薬株式会社 外一名

主文

本訴を大阪地方裁判所へ移送する。

理由

原告の本訴請求の要旨は、原告は、「歯磨及び他類に属せざる洗料」(商標法施行規則一五条第五類指定商品)につき、ソフトSOFTなる商標の登録を有するものであるが、被告等は、昭和三一年三月三日から大阪、東京、名古屋等において、「ソフトサンスター」の商標を包装に表わした歯磨を発売し、また、新聞、ラジオ、テレビ等による右の歯磨の広告宣伝にもソフトの表示を用いている。被告等がその製造販売に係る歯磨サンスターの包装や前記の広告宣伝にサンスターの文字の上に「ソフト」又は「SOFT」或いは「ソフトSOFT」(以下単にソフトという)の文字を用いることは、原告の有する前記「ソフト」なる商標権を侵害するものである。よつて、商標権の侵害を理由として被告等に対してその製造販売する歯磨の包装、容器等に商標としてサンスターの文字を用いる外これにソフトの文字を附加しないこと並びにその製造販売する歯磨の新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、ポスター、引札等による広告、宣伝及び説明書の類に商標としてサンスターを表現する外これにソフトを附加しないことを求める。

というにある。

原告は、本訴の請求は商標権の侵害を原因とするものであつて、不法行為を直接の請求原因とするものではないが、被告等には故意又は過失があるから、被告等の侵害行為は同時に不法行為を構成するものであり、本訴はこの不法行為によつて侵害を蒙つている商標権の原状回復を求めるものであるから、本訴は民事訴訟法一五条一項の「不法行為に関する訴」に該当し、不法行為地の裁判所たる当庁の管轄に属するものであるといい、被告等は商標権の侵害を原因として侵害行為の差止ないしは排除を求める訴は「不法行為に関する訴」に該当しないから、本訴は被告等の住所地の裁判所たる大阪地方裁判所の管轄に属するものであると主張する。

思うに、右の点については学説上争があるが、民訴一五条一項にいわゆる「不法行為に関する訴」とは不法行為を請求原因とする訴をいい、商標権の侵害そのものを理由として商標権それ自体の権能に基いて侵害の差止ないしは排除を求める訴はこれに含まれないものと解するのが相当であると考える。従つて、この点に関する原告の主張は採用しない。

しかして、被告等の住所が大阪市にあることは一件記録に徴し明らかであるから、本訴は当裁判所の管轄に属せず、大阪地方裁判所の管轄に属するものといわねばならない。よつて、民事訴訟法第三〇条一項に従い、主文のとおり決定する。

(裁判官 石井良三)

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